私は写真を撮影する技量が低い割には、モノとしてのカメラが好きになり、集めてしまう癖がある。YouTubeを始めた当初は、より良い条件で撮影できる機材を探し求めていたが、今では愛玩具としてのデジタルカメラを欲している。それも「日本製」で。赤瀬川原平さんの影響で、カメラを愛玩具として接する人種は一定量存在していた。20年ほど前、名古屋の百貨店の上階に、ライカやらツアイスやらの高級中古カメラを販売していた店があったが、そこを訪れるおじさんは、明らかに赤瀬川原平さんの影響を受けていた。私はそこで、2回巻き上げ動作させて撮影体制が整うライカのM3と、ドイツが東西に分断されていた頃のツアイスのカメラを触らせていただき、そのどちらを購入するかで迷っていた。価格は、ライカの方がツアイスの5倍は高かったと記憶している。結果として私は、ツアイスのコンタックスⅡa を購入して、とろとろに溶け込むような、滑らかなレンズのボケ味に夢中になるわけだが、デジタルカメラ全盛後の、写真が綺麗に写せるスマートフォンの登場により、銀塩カメラの存在意義がなくなり、とうとう売ってしまった。この時代のカメラは、コンタックスの場合はシャッターが鎧戸のようなシャッターで、勇ましいシャッター音が耳に心地よかった。名古屋の百貨店で触らせてもらったライカM3は、本当に一瞬の出会いであったが、今でもボトム部分の滑らかさ、コトリと音のするシャッター音が記憶に残っている。そして本題の「日本製」カメラである。2000年代初頭のデジタルカメラは、かなりの高確率で日本製であった。この頃のカメラはまだ、カメラとしての重厚さを備えており、外装や電池蓋など、作りがしっかりしていた。私が偶然出会った富士フイルムのX10は2011年の日本製であった。フロント面に機種名メーカー名を刻印しない潔さと、背面に誇らしげに刻まれた「MADE IN JAPAN」。
私はスマートフォンの画面越しでも、このカメラに一目惚れしてしまった。届いたカメラを触ると、重厚感のある操作体系。レンズの美しさ、適度な重量感。最近のコンデジでは味わえない、「持つ楽しみ」を増幅させてくれる。カメラを愛でるだけでは良くないので、外に連れ出して撮影する。フォーカス合わせに時間がかかるが、シャッターボタンを押せばその瞬間を切り取れる。X10は決して性能の高いカメラではなく、レンズの明るさにも関わらず、自動モードにしたときには、シャッター速度が遅めに設定される。夜間は確実に手ぶれとなり、光の筋が流れたような写真が出来上がる。
ロバート・キャパの「ちょっとピンボケ」のような、なんとも臨場感のある写真が撮れる体験。フィルムカメラ時代にたくさんの失敗例を作って来たのだが、デジタル時代に、フィルムカメラの追体験をできるカメラは少ないと思う。フィルムカメラといえば、富士フイルムの銀塩フィルム品名である「Velvia」と、「ASTIA」のシミュレーションが、X10には内蔵されている。その後の機種には、もっと多くのシミュレーションが組み込まれているようだが、X10ではシンプルだ。なお、今回撮影した動画は、Velviaの設定で撮影した。なんともコッテリとした描写になっていると思う。
この隠れた名品とも言えるカメラは、「FUJI Lover」をもってしても、カメラの品名を当てられなかった。おそらく富士フイルムのデジタルカメラで、前面に会社のロゴおよびカメラの品名を刻印しないのは、本機X10の初代と、X100系カメラであろうか。
私は、カメラの前面にデカデカと会社のロゴなどが刻印されているカメラが苦手で、一時期はロゴを黒いマジックで塗りつぶしていた。
カメラメーカーの方々から見たら噴飯物かもしれないのだが、その後に販売されたLUMIXのある機種では、ロゴ等が黒塗りになったカメラが販売されていたので、それなりの理由をご理解いただけたものと解釈している。X10においては、会社のロゴや品名のロゴを前面に配置せず、背面に「MADE IN JAPAN」の文字を刻印した、富士フイルムの当時の開発者方々の心意気を感じている。
だから、「日本製」のカメラが好きです。