レイモンド・チャンドラーが作り出した、ハードボイルド小説のヒーローであるフィリップ・マーロウのセリフの数々を、再度読むこととなって嬉しい。
私がフィリップ・マーロウの生き方に触れたのは、かれこれ30年ほど前だろうか。「タフでなければ生きてはいけない、やさしくなければ生きていく資格がない」といった名台詞は、フィリップ・マーロウの人柄を語る時の代名詞となっている。しかしその日本語訳が、かの小説家により色々と変わっていた。
この文庫は、フィリップ・マーロウの名言集という位置付けで、海外の作者による編集を、小説家により翻訳されている。久しぶりのセリフを懐かしく思いながらも、あるセリフがマーロウにより発せられたものでなかったり、日本語訳に違和感を持っていたりして、なんとも煮え切らない読後感であった。
そこまで違和感を持つのなら、英文をそのまま読めば良いという意見もあるであろう。しかし、30年ほど前に読んだ時に作られたビジュアルイメージは、日本語訳により解凍されるのだと思う。
マーロウはとてもシニカルな視点で世の中を眺めており、それらを消化するため、本当にユーモアあふれるセリフを多数輩出している。このキャラクターは、後に登場するハードボイルド小説に影響を与え、日本の刑事物ドラマにも、多大な影響を与えていると考える。
マーロウは漢気あふれる情熱家で、伝説の作品「長いお別れ」で発揮される。友情や、自分の決めたルールを貫き通す姿勢は、私に多大な影響を与え、私は損な人生を歩んだのかもしれない。自分の決めたルールに忠実になることは、時を経るごとに難しくなり、大変生きづらくなったと思う。マーロウの時代も、マーロウは生きるのに苦労したと思うが、21世紀の現代は、さらにハードになったかもしれぬ。
マーロウの生き様について、もう一度「長いお別れ」を読んで、30年後の自分を振り返っている。なお翻訳者は、清水俊二氏のバージョンである。